演奏時つねに弦が擦り付けられる指板には、堅くて耐久性のあるエボニー材が主に使われています。
それでも長年演奏していくうちに、弦を擦り付けることによって次第に指板表面が凸凹になってきます。
そのような指板では弦を押さえにくく、音程がずれたり、またビリつきの雑音が出ることもありますので、表面を滑らかに削り取る修理が必要となりますので、指板は消耗部品とも言えるでしょう。
指板表面の状態は、まっすぐ直線ではなく、指板に長い定規などを当ててみると、中央部分に1mm弱の隙間ができるような滑らかな反りがある状態が理想的です(ただし低価格品ではあまり精度は高くありません)。
この反りがあることにより、弦が指板にぶつかりにくくなり、お好みにより弦高をギリギリまで低くすることが可能になるのです。
エボニーの外観は真っ黒というイメージがありますが、実際には同じエボニーでもやはり産地や部位などにより大きな品質差があります。
上質なエボニーでは、目がとても詰まっていて加工もしやすく、磨くと美しい艶が出ます。
実際にはそうでないエボニーであることのほうが多く、木の繊維や密度もバラツキがあり、見た目は白木に近いような部位も各所にあり、ムラのように表れます。
そこで、指板表面に黒い塗料を塗って仕上げられることも少なくありません。
バイオリンが新しいうち、左手の指やあごが黒くなりがちなのは、その黒い塗料が付着するためです。個体差はありますが、製作から間もない新しい楽器、ひいては人気商品であるほどどうしても付着しがちです。
しかしそれも次第に落ち着いていきますし、決して質や作りが劣るわけではありませんのでご安心ください。
また、かなり安い低価格帯のバイオリンでは、製造コストダウンのため、指板の材質にエボニーでなく、堅めの木材に色を黒く塗ったものが使わることもあります。
この場合には、耐久性がエボニーより劣りますので、比較的早期に指板表面がボロボロになります。
しかしそのようになる頃にはきっと演奏技術もかなり上達しているでしょうから、お金をかけて修理するよりも、それを機に良い楽器に買い替えることをおすすめします。
前述のとおり消耗品ともいえる指板は、簡単に剥がして修理できるよう、ネックにニカワ接着されています。
ニカワは接着強度が弱く、楽器が新しいうちでも突然簡単に剥がれてしまうことがあります(ボディの加工方法の接着方法に関する項目もご参考いただけます)。
もちろん修理可能ですのでご安心ください。その際にはどうぞ遠慮なく当店へご相談ください(アフターサービス)。
指板下がりという症状についてご案内します。
演奏時にハイポジションでは弦が押さえにくい、つまり弦の高さが以前よりも高く感じられた場合、指板が下がったことも考えられます。
これには、主に3つの原因があります。
まず第一に、バイオリンには、弦の張力によって驚くほど大きな力がかかっています。
そのため次第にネックが起き上がり、結果指板が下がっていきます。
また、第二の原因として気候の変化が考えられます。
残念ながらバイオリンにとっては、通年を通して温湿度変化の大きい日本の気候条件は、ヨーロッパよりずっと過酷です。
夏と冬では温度、湿度とも外気の状態が異なり、木材の形状が変化するのです。
基本的には、温度と湿度が高いとニカワが緩み、木材も膨張して、指板が下がる傾向があります。
そして第三の原因として、木材形状の落ち着きによるものが考えられます。
製造時から販売までの間は、弦の張力が大きくかかることはありません。
しかし販売後は基本的にこれまでなかった大きな力が、常にかかった状態になります。
それにより木材の形状が次第に変化し、ある時点で落ち着きます。
このように次第に指板が下がることは避けられないことでもありますが、下がった場合には、駒を再調整したり、もしくは低い駒に交換します。
ただバイオリンの状態は変化するため(指板が上がることもあり得ます)、いくつかの駒を用意されることが理想でしょう。
あまり気になるようでしたら、どうぞ遠慮なく当店へご相談ください(アフターサービス)。
その際、測定いただいた弦高もお知らせいただければと思います。
弦高には様々な測定方法がありますが、例えばE線(第1弦)について、指板の端(駒方向側の端)から弦までの距離を測定するのも一般的です。