バイオリンの中で最も重要な振動響板の役割を持つ表板には、「スプルース」が使われます。
日本名では「松」ですが、日本で多く見られるクロマツのようにくねながら伸びる松ではなく、天に向かってまっすぐに生えている松で、正確には「ドイツ唐檜」「フィヒテ」と言います。
このスプルースは、とても軽い割りには強度がとても高く、程良い柔らかさを持っているため、たいへん優れた振動板となります。
外観は細くて平行にまっすぐ通った木目が印象的です。
一般的にはこの木目の間隔が狭く(きめが細かく)、等間隔できれいに通っているものが良質とされており、張りのある音の響きにつながります。
このように同じ「スプルース」でも性質は様々で、その差が価格にも大きく影響します。
表板は、均一な振動板として効果を発揮するため、左右対象の2枚板から作られます。
また、表板には「f字孔」という左右対称の穴があけられています。
このf字孔によって、表板の振動がスムーズになり、よく響くようになります。
また、バイオリン製作に使われる木は、しっかりと乾いていてよく枯らしたものであることが重要です。
それなりのバイオリンでは、少なくとも5年以上は太陽と空気にさらして十分に乾燥されていますが、この乾燥施設、乾燥技術、乾燥保管期間からすでに、価格に大きく影響しているわけです。
更に高額なものでは30年以上自然乾燥させているものもめずらしくありません。
裏、側板とネックには、一般的には「メイプル」と言われますが、密度の高い広葉樹、主に「楓」材が使われています。
やはり日本で見られる楓でなく、主にボスニア地方の楓です。
裏、側板は自らも振動しますが、むしろ表板の松材を効果的に振動させる役割を持ちます。
そこで程良い堅さを持ち、美観の面でも優れている楓材が使われているわけです。
節が無く、木目が曲がったり波状でなく均一なものが理想です。
高品質の楓材の特徴として、杢(虎杢)が美しく出ています。
杢とは、木目(年輪)のことではありません。
樹木の細胞の配列が規則的にずれて並んだりすることによってできる模様で、主に木目とは垂直方向に美しい縞模様となって現れます。
この模様は音質とは無関係ですが、バイオリンが工芸品と言われる理由の一つですね。
高額なものほど、美しい杢が出ている傾向にあります。
裏板には中心部分で貼り合わせた2枚板のタイプと、貼り合わせをしない1枚板のタイプがあります。
左の写真で左が2枚板、右が1枚板になります。
一般的には1枚板の方が少なく、高級な位置づけがされていることが多いようです。
1枚板を作るには、大きな樹木が必要になります。
そのためたくさんは作ることができず、コスト的に高価にもなります。
しかし実際のところは、音響学的にも優劣はなく、1枚板は左右の収縮率の違いから歪みやすいのではという考えから、むしろ2枚板が理想と言われることもあります。
意見の分かれるところですが、極論すれば、単なる好みですので気にしなくてもよいかと思います。
次に、糸巻き(ペグ)、あご当て、テールピース、エンドピンなどのフィッティングパーツ部品の材質についてご案内します。
材質ごとの一般的な特徴を以下にご案内します(ただし実際には各材料ごとに大きな品質グレード差があります)。
【エボニー(黒檀)】
一番の長所はまず堅いことです。
繊維の密度が高くて均一のため精密加工もしやすく、耐久性があるため寿命が長い、理想的な材質です。
色も真っ黒なので、見た目のバランスも良好です。
【ローズウッド(紫檀)】
エボニーに似ていますが、茶色の筋模様が入っています。
その外観が美しく、家具などにも使用されますが、エボニーほど密度が高くなく均一でないため、精密加工が比較的困難です。
【ツゲ】
茶色っぽいもので、オールドバイオリンにもよく採用されています。
色のデザイン的に好まれる人も少なくありませんが、軽いという特徴も魅力です。
しかし、エボニーと比べてやわらかいので、特に糸巻きではすり減ってしまうために寿命が短く(もちろんすぐに使えなくなるわけではありませんのでご安心ください)、あご当てでは汗で変色することがあります。
【黒塗りメイプル】
表面を黒く塗った、堅めの木材です。
一見エボニーに似ていますが、エボニーのような堅さはなく、寿命も短いです。
なにより値段が安いことがメリットです。
長年使用されることが少ない、低価格帯のバイオリンによく採用されています。
【プラスチック】
これも黒いものがほとんどですので、一見エボニーに似ています。
精密加工が困難なため、特に糸巻きにはあまり向いていません。
やはり値段が安いことがメリットで、低価格帯のバイオリンに採用されます。